土地を選ぶときには、日照や形、広さなどよい条件を求めるのは当然。
しかしそういう土地が見つからない場合でもあきらめる必要はない。
小さな土地に快適な家を建てることで定評のある建築家の杉浦伝宗さんは、「法規制によって、建物の規模は決まってしまいます。しかし、狭い敷地でも外部空間をうまく採り入れたり、縦に空間を延ばす、上からの光を利用する、など工夫次第で快適な家を建てるのは可能」という。ただし敷地の条件はさまざまなので、「条件に合わせて最も効果的な設計をすることが大切」と話している。
どのような工夫で暮らしやすい家ができるのか、そのポイントを見ていこう。
建ぺい率と容積率で建物の規模が決まる
建ぺい率は、敷地面積に対する建築面積の割合。建築面積は建物を真上から見下ろして、壁や柱の中心線で囲まれた部分のこと。
容積率は、敷地面積に対する延床面積(各階床面積の合計)の割合を示す。地域ごとに許容限度が決められている。
建物の高さを制限する、道路斜線制限・北側斜線制限
北側斜線制限は、北側隣地境界線から5m(用途地域で異なる)立ち上げたところから延びる一定角度の斜線内に、道路斜線制限は、前面道路の反対側の境界線から引いた斜線内に建物を収めなければならないというもの。
※図は第一種・第二種低層住居専用地域の高さ制限と北側斜線制限。住居系地域の道路斜線制限
2m接道義務と敷地のセットバック
4m以上の道路に2m以上接していないと家は建てられない。道幅が4mに満たない場合は、道路の中心線から2m後退したところが道路の境界線とみなされ、道路とみなされた所には家を建てられず、塀もつくれない。
狭さなど悪条件を克服して快適な家を建てるポイントを困難を克服した実例から探ってみよう、きっと参考になるはずだ。
[条件]四方を囲まれた狭小地
[敷地]面積50.58m
[家族構成]夫婦+子ども2人
50m2の敷地に家族4人が暮らす。地下(半地階)に居室をつくり土地を縦に有効利用。LDKのほか家族全員の居場所を確保しながら、スキップフロアで空間に連続性をもたせ、お互いの気配が感じられるつくりに。外部空間はバルコニーやデッキでフルに活かし、建物との一体感をもたせた。
[条件]三方が囲まれた狭小地
[敷地]面積39.87m
[家族構成]夫婦+子ども2人
40m2足らずの狭小地での建て替え。家族4人のためになるべく広く、採光・通風もきちんと確保したいという希望を「地下LDK」という逆転の発想で叶えた。ドライエリアとして中庭を地下に設け、グレーチングの床を通して、空まで吹抜けに。光も風も十分、地下まで行き届く、明るい住まいになった。
こんな土地ではよい家が建たないという先入観は捨てて、さまざまな条件の土地をごとに、クリアできるコツを覚えておこう。
これがコツ!階段など仕切りを省いてオープンな空間をつくる
狭い土地に家を建てると、リビングや家族の個室も小さくなってしまうのでは、と思いがち。
「しかしプラン次第で、狭さは克服できる」と、話すのは建築家の柏崎文昭さん(甚五郎設計企画)。ポイントは、中をなるべく仕切らないことだという。「廊下をなるべくつくらず、階段も部屋の中にとりこんで、フロアをオープンなワンルームスタイルにします」
必要があって部屋を区切りたい場合は、「天井までの高さがない家具などを置いて仕切るのがよいでしょう。空間を分けながらも天井はつながっていることで、視覚的に広さを感じられ、空間のアレンジも簡単です」とアドバイスする。
また、下の例のように、ガラスを間仕切りに用いて、光を通し開放感を出すというアイデアも。さらに外に視界が広がる工夫をすれば、より効果的だ。
これがコツ!外空間として活かす。変形空間を楽しむ
平行四辺形や台形といった変形地も多い。
そういう土地に四角い家を建てると無駄ができそうな気がするのだが。
「建物を配置してできる敷地の空きをうまく利用する、あるいは敷地の形状に沿って、部屋そのものを変形させるなど、敷地形状を活かして、住み心地のよい家づくりは十分可能です」と柏崎さんは言う。
例えば、平行四辺形や台形の土地に建物を配置すると、どうしても角部に余分な空きができる。
その空きを外部空間として活かそうという発想があれば、四角い敷地よりも奥行きのある庭を楽しむことができる。
また、部屋を敷地形状に沿って変形させた場合、例えば下の事例に見られるように、ちょっとおもしろいリビングの空間ができることがある。落ち着いた家族の集まる場として、有効に活かすことができる。
これがコツ!建物形状や採光方法の工夫でクリアできる
三方を隣家に囲まれ、道路に面した狭い間口しか外に開かれていない。そんな細長い敷地では、光と風を存分に採り入れることは絶望的だろうか。
「敷地への建物の配置のしかたで、光や風を採り入れやすくなります。例えば、コの字形や雁行形に配置して、中庭から光を採り入れるという手法もよく使われます」(柏崎さん)。
また、道路側など開けているところからはなるべくたくさんの光を採り入れられるよう工夫することも大切。例えば、下の写真の例のように全部開口部にしてしまうといった具合。
「どうしても光が足りない場合は、トップライトを設けて、上から光を採り入れるという手段もあります」
ただトップライトは光の量が通常の窓よりかなり多く、夏場非常に暑くなるので、設ける位置に注意しよう。
地下として積極利用。段差も設計に活かす
傾斜地っていかにも家を建てにくそう、と思うかもしれない。しかし、傾斜地には、平地にはないメリットもある。
「土地の段差を利用すると地下室や地下車庫などをつくりやすいんです。地下といっても土地に高低差があるので、半分は地上に出ていますから、工事もしやすくコストも抑えられます」と柏崎さん。半地下ができることで、左の例のように上階がスキップフロアとなり、変化のある空間を楽しむこともできる。
また、敷地が傾斜していることから、低いほうに向かった窓からの見晴らしがよいというメリットも生まれやすい。
地盤については、造成地で敷地を平坦にするために盛り土をした部分は、軟弱となりやすいので要注意。事前に地盤調査をして、地盤改良など適切な補強をすることが肝心だ。